固定残業(みなし残業)制度とは?残業代の計算方法やメリット・注意点を解説

残業

固定残業制の残業代を計算する人事労務担当者

固定残業制を導入している、あるいは導入を検討しているなかで、「現在の運用は法的に問題ないか」「賃金計算に誤りがないか」と不安を抱えていませんか。
固定残業制は人件費の見通しが立てやすく、残業管理の手間も軽減できる便利な制度ですが、運用を誤れば法律違反や労務トラブルにつながるリスクもあります。
特に、実態と合っていない固定残業時間の設定や超過分の未払いは、企業にとって深刻な問題となりかねません。
そこで本記事では、制度の基本から正しい計算方法、導入・運用のポイントまでわかりやすく解説します。

以下の記事では、残業の基礎知識から残業代の計算方法までを詳しく解説しています。

関連記事:残業代の正しい計算方法とは?残業の基礎知識からわかりやすく解説

この記事のポイント(要約)

POINT
  • 固定残業制はどのような仕組み?
  • 一定時間分の残業代を、実労働時間に関わらず毎月定額で支払う制度。
  • 固定残業代の正しい計算方法は?
  • 「基礎賃金×固定時間×割増率」で算出し、法定額や最低賃金を下回らないよう設定。
  • 固定残業制の運用メリットと最大の注意点は?
  • 人件費管理を効率化できるが、超過分の別途支給と基本給との明確な区分が必須。
手間のかかる勤怠管理、効率化しませんか?

この記事の目次

    固定残業(みなし残業)制とは

    固定残業(みなし残業)制とは、あらかじめ一定時間分の残業代を給与に含めて支払う制度のことです。
    企業にとっては人件費の見通しを立てやすく、従業員にとっては残業が少ない月でも安定した収入を得られるという、双方にメリットがある仕組みです。
    一方で、適切な時間設定や基本給との明確な区分など、法的ルールを遵守しなければ違法とみなされるリスクがあるため、運用には注意を払わなければなりません。
    また、仕組みが全く異なる「みなし労働時間制」と混同されやすいため、各制度の違いを正しく把握しておくことが重要です。
    ここからは、固定残業制の基本的な考え方と仕組みを詳しく解説します。

    固定残業代(みなし残業代)に含まれる割増賃金の種類

    固定残業代(みなし残業代)に含められる割増賃金は、大きく分けて時間外割増賃金・休日割増賃金・深夜割増賃金の3種類です。
    それぞれの割増賃金の支給条件と割増率は、以下の通りです。(※1)

    割増賃金の種類 支給条件 割増率
    時間外割増賃金 法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えたとき 25%以上
    1か月の時間外労働が60時間を超えたとき 50%以上
    休日割増賃金 法定休日(週1日以上)に勤務させたとき 35%以上
    深夜割増賃金 22時から翌5時までの間に勤務させたとき 25%以上

    「固定残業代には時間外割増賃金のみを含め、休日・深夜手当は含めない」といった対象範囲の設定は、企業ごとの就業規則や雇用契約の定めに委ねられています。
    そのため、残業代の未払いや従業員との認識齟齬を防ぐには、「どの種類の割増賃金を」「何時間分含めるのか」を明確に定めておくことが重要です。(※2)
    また、固定残業代として支払う金額は、法定の割増率を用いて正しく算出された金額以上でなければなりません。もし設定額がこの基準を下回っている場合は、不足している差額分が「未払い残業代」とみなされるため注意が必要です。
    さらに、設定した固定残業時間を超えて労働が発生した場合には、その超過分を別途、法定割増率に従って支給しなければなりません。
    トラブルのリスクを抑えるためには、対象となる手当の種類・時間数・金額を精査し、超過分を必ず別途支払う旨を就業規則等に明記したうえで運用しましょう。

    (※1)参考:東京労働局「しっかりマスター 労働基準法」
    (※2)参考:厚生労働省「固定残業代を賃金に含める場合は、適切な表示をお願いします」

    みなし労働時間制との違いに注意

    みなし労働時間制とは、実際の労働時間にかかわらず「あらかじめ定めた時間だけ働いたものとみなす」制度で、事業場外みなし労働時間制(※1)や裁量労働制(※2)などがこれに該当します。
    一方で固定残業制は、あくまで「一定時間分の残業代を定額で支払う」仕組みであり、労働時間そのものをみなす制度ではありません。
    両者は目的も仕組みも全く異なるため、混同すると残業代の未払いや36協定違反など、重大な労働基準法違反を招くおそれがあります。

    【固定残業制とみなし労働時間制の比較】

    項目 固定残業制 みなし労働時間制
    運用方法 実労働時間を把握したうえで、残業代の一部を定額で先払いする 労働時間を直接カウントせず、「みなし時間」で把握する
    労働時間の扱い 実労働時間をそのまま把握・記録する。 実労働に関わらず、あらかじめ定めた時間(みなし時間)を労働とする
    対象業務・要件 業務の限定はなく、就業規則や契約での定めにより導入可能 法律や通達により、対象業務が厳しく限定されている
    残業代の扱い 固定分までは定額。固定時間を超過した分は必ず追加支給が必要 みなし時間が法定時間を超える場合などに割増賃金が発生する
    主な注意点 実労働時間を適切に把握し、超過分を確実に支給することが重要 要件を満たさない場合、制度そのものが否定されるリスクがある

    このように、「時間をみなす制度」なのか、「賃金の支払い方に関する制度」なのかを切り分けて理解することが、適切な運用の第一歩です。

    (※1)事業場外みなし労働時間制:営業職など、実際の労働時間を把握することが難しい仕事について、あらかじめ決めた時間働いたものとみなす制度
    (※2)裁量労働制:専門職・企画職など、働き方を本人の裁量に委ねる仕事について、実際の労働時間ではなく「みなし労働時間」で働いたとみなす制度
    (※1)(※2)の参考:兵庫労働局「裁量労働等(みなし労働時間)」

    固定残業代の計算方法

    固定残業制では、金額の設計や計算を誤ると、意図せず残業代不足や未払いが発生するリスクがあります。
    ここでは、適正な固定残業代を算出するための4ステップを解説します。

    ①1時間あたりの基礎賃金を算出する
    まずは、計算の土台となる「1時間あたりの基礎賃金」を求めます。
    最初に、従業員の月給総額から、通勤手当など「割増賃金の算定基礎から除外できる手当」を差し引き、基礎賃金の月額を算出します。
    続いて、基礎賃金の月額を月平均の所定労働時間で割ることで、1時間あたりの基礎賃金が算出可能です。

    • (基礎賃金の月額)=(月給 - 除外できる手当)
    • (1時間あたりの基礎賃金)=(基礎賃金の月額)÷ 所定労働時間

    どの手当を除外できるかは、名称ではなく「支給条件や性質」で決まります。自社の賃金規程に基づき、適正に整理しましょう

    ②固定残業代の対象時間・範囲を決める
    次に、どの割増区分を何時間分カバーするのかを明確にします。これらは就業規則や雇用契約書への明記が必須です。
    以下の例を参考にしてください。

    • 「時間外労働20時間分のみを固定残業代の対象とし、深夜・休日労働は含めない」
    • 「時間外労働と深夜労働の合計〇〇時間分を対象とする」

    ③固定残業代を算出する
    ステップ①と②の結果をもとに、以下の式で計算します。

    • 固定残業代 = 1時間あたりの基礎賃金 × 固定残業時間 × 割増率

    設定した金額が、法定の割増率で計算した「本来支払うべき額」を下回っていないか必ず確認してください。

    ④総賃金の構成を整理する
    最後に、給与明細や契約書で示す「総賃金」の内訳をイメージします。

    • 総賃金 = 基本給 + 固定残業代 + 超過分の割増賃金 +その他諸手当

    固定残業時間を1分でも超えた場合は、その分を別途「追加支給」しなければならない点に注意しましょう。
    固定残業制の適切かつ安心な運用のためには、上記した4つのステップを明確にし、就業規則・賃金規程・給与計算の運用をそろえておくことが重要です。

    (※)参考:厚生労働省「割増賃金の基礎となる賃金とは?」

    固定残業時間を超過した場合の追加残業代計算例

    固定残業制を導入していても、実際の残業時間が設定時間を1分でも上回れば、その超過分に対して割増賃金を支払う義務が生じます。
    以下の前提条件に基づき、具体的な計算手順を確認してみましょう。

    【前提条件】

    • 1時間あたりの基礎賃金:1,800円
    • 固定残業時間:15時間
    • 固定残業代:33,750円(計算式:1,800円 × 1.25 × 15時間)
    • 実際の時間外労働:28時間
    • 時間外割増率:25%

    【計算手順】

    1. 超過時間の算出:実際の残業(28時間) ー 固定残業(15時間) = 超過分13時間
    2. 追加支給額の計算:1,800円 × 1.25 × 13時間 = 29,250円
    3. その月の残業代総額:固定残業代(33,750円) + 追加分(29,250円) = 63,000円

    このように、固定残業制はあくまで「一定時間分の残業代をあらかじめ支払う仕組み」に過ぎません。
    実労働時間を適切に把握し、固定時間を超えた分については、必ず別途追加で残業代を支給しなければならない点を徹底しましょう。

    固定残業制のメリット

    固定残業制は、企業にとっては人件費の見通しを立てやすくなるほか、毎月の給与計算事務の負担軽減につながるなどのメリットがあります。
    また、従業員にとっても、残業が少ない月でも一定額の残業代が保障されるため、収入の安定化に寄与する制度です。
    本章では、固定残業制がもたらす主なメリットを、3つのポイントに絞って詳しく解説します。

    人件費を予測しやすく、経営管理が容易になる

    固定残業制を導入する大きなメリットは、毎月の人件費の見通しが立ち、経営管理がスムーズになる点です。
    毎月の残業時間の増減に左右されず、一定額の残業代を給与に組み込めるため、人件費の予算策定やシミュレーションの精度が向上します。
    特に繁忙期と閑散期で残業時間に差が出やすい業種では、固定残業代の設定によって、月ごとの人件費変動を最小限に留めることが可能です。
    変動しやすい残業代部分を一定額に近づけて人件費を平準化することは、中長期の経営計画や採用計画を安定させる一助となるでしょう。

    残業管理と給与計算の手間を削減できる

    固定残業制の導入により、毎月の残業管理と給与計算に要する工数を削減できます。
    設定した時間分については定額で処理できるため、毎月の残業代を一件ごとにゼロから算出する必要がなくなり、給与計算フローが大幅に簡略化されるためです。
    もちろん、実労働時間を正確に把握し、固定時間を超えた分の追加計算を行う必要はあります。しかし、「固定時間内」は定額として扱えるため、月末に膨大な勤怠記録をすべて手作業で集計する負担は大幅に軽減されます。
    その結果、総務・人事担当者の事務作業が効率化され、本来注力すべき人事施策の立案や労務環境の改善といったコア業務に、より多くの時間を割けるようになるでしょう。

    従業員は残業の有無に関わらず、一定の残業代を得られる

    固定残業制は一定時間分の残業代を月給に含めて支給する仕組みのため、実際の残業時間が少ない月でも手取り額が変動しにくいというメリットがあります。
    繁忙月のみ残業代が増える従量制(実労働時間に応じた支給)と比べて、年間を通じた収入の見通しを立てやすくなる点は、従業員側にとって大きな利点です。
    特に、繁忙期と閑散期の差が激しい職種では、毎月の給与水準が安定することで、無理のない生活設計が可能になります。
    このように、収入のばらつきを抑えられる固定残業制は、適切な設計と運用が行われていることを前提に、従業員の安心感や定着率の向上にもつながる制度と言えるでしょう。

    固定残業制のデメリットと対策

    固定残業制は便利な制度である反面、一歩運用を誤ると、人件費の増加や従業員の不満につながるというデメリットも存在します。
    特に、実態と合わない固定残業時間の設定や従業員への説明不足は、労務トラブルの原因となりやすいため注意が必要です。
    固定残業制が抱える主なデメリットを整理しておきましょう。

    人件費が増加する可能性がある

    固定残業制には、人件費が予想以上に増加してしまうリスクが潜んでいます。
    設定した時間を下回る月であっても一定額を支払う義務があるため、実労働時間と支給額に乖離が生じ、結果として過剰な人件費が発生しやすくなるからです。
    たとえば、残業がほとんど発生していない部署に月20時間分の固定残業代を支給している場合、実態以上のコストが継続的に発生することになります。
    こうした状況が慢性化すると、人件費の肥大化を招くだけでなく、他部署との不公平感や制度そのものへの不信感にもつながりかねません。
    固定残業時間の設定は、実際の勤怠データを定期的に分析し、実態に即した水準へ見直し・調整を行うことが、人件費を適正化するうえで不可欠と言えるでしょう。

    従業員の働くモチベーションが下がる可能性がある

    固定残業制は、運用次第では従業員の意欲低下を招く恐れがあります。
    制度設計と実労働の実態にズレが生じると、給与への納得感や働き方の公平性が損なわれやすいためです。
    従業員のモチベーション低下を招く具体的な要因には、以下のようなケースが挙げられます。

    • 評価への不信感:基本給を抑えて固定残業代を上乗せしているように見えると、賞与や昇給の算定基準が低く抑えられていると感じ、「正当に評価されていない」という印象を持たれる。
    • 申告の形骸化:固定時間を大幅に超える残業が常態化し、超過分の支給が不十分だと、「申告してもどうせ反映されない」という諦めから、正しい労働時間の申告を控える人が出てくる。
    • 部署間の不公平感:部署ごとに残業実態が大きく異なるにもかかわらず、固定残業代が一律同額であることに不満を抱く。

    こうしたリスクを回避するには、客観的な労働時間データに基づき、固定残業時間の設定を定期的に見直すことが不可欠です。
    あわせて、固定残業代の定義(基本給との関係や超過分の支給ルール)を就業規則や説明会で丁寧に伝え、従業員が「なぜこの仕組みになっているのか」を深く理解できる状態を整えましょう。

    手間のかかる勤怠管理、効率化しませんか?

    固定残業制の導入で押さえておきたいポイント

    固定残業制を導入する際は、制度の法令適合性に加え、従業員との適切な合意形成が重要です。
    実労働の実態とかけ離れた時間設定や、契約内容の明示不足は、深刻な労務トラブルを招く恐れがあります。
    本章では、制度を安全かつ円滑に導入するために、必ず押さえておきたい基本ポイントを3点に整理して解説します。

    労働実態に基づき適正な固定残業時間を設定する

    固定残業制を導入する際は、実際の労働実態に基づき適正な残業時間数を設定することが不可欠です。
    実態とかけ離れた残業時間を一方的に設定してしまうと、以下のリスクを招く恐れがあります。

    • 人件費の無駄が発生する
    • 従業員の不信感や未払いリスクが発生する

    こうした事態を避けるためには、過去の勤怠データを「部署別」「職種別」に分析し、平均残業時間や繁閑差を考慮した時間数を設定することが重要です。
    また、一度決めて終わりではなく、定期的に見直す仕組みを設けることで、法令遵守と人件費適正化を両立した健全な運用が可能になります。

    事前に従業員と合意を形成する

    固定残業制を導入する際は、事前に従業員との確実な合意形成を行うことが不可欠です。
    制度内容への理解が不十分なまま導入を進めると、賃金体系への不信感や「いつの間にか制度が変更された」といった不満を招く恐れがあります。
    トラブルを未然に防ぐためには、固定残業代が時間外労働に対する対価であることや、対象となる時間数、超過分の支給ルールなどを説明会や面談で丁寧に伝えましょう。個々の従業員と認識のズレが生じないよう、双方向のコミュニケーションを尽くすことが重要です。そのうえで、就業規則や雇用契約書に内容を明記し、署名・押印による合意プロセスを確実に踏んでください。
    書面化を徹底することで、「説明を受けた・受けていない」といった後々の行き違いを防止し、制度の正当性を担保しやすくなります。

    就業規則・雇用契約書への明記と周知を行う

    固定残業制を適正に運用するためには、就業規則や雇用契約書へ制度内容を具体的に記載し、全従業員へ周知を徹底しなければなりません。
    記載内容が曖昧な場合、固定残業代の対象範囲や超過時の扱いをめぐって認識のズレが生じ、深刻な未払いトラブルを招くリスクがあります。
    特に以下の項目については、書面で詳細に示したうえで、説明会や面談を通じて個々の理解を促すことが重要です。

    • 固定残業時間の具体的な時間数
    • 固定残業代として支払われる金額
    • 対象となる割増賃金の範囲(時間外・休日・深夜の別)
    • 固定時間を超えた場合の精算・支給方法

    こうした「書面化」と「周知」を徹底することで、制度の透明性と社内的な信頼性が高まり、導入後の無用なトラブルを未然に防ぐことができます。

    (※)参考:厚生労働省「スタートアップ労働条件」

    固定残業制の運用で違法リスクを招くケースとトラブル防止策

    固定残業制は便利な一方、運用を一歩誤れば労働基準法違反や、未払い残業代の遡及請求といった重大な経営リスクを招く可能性があります。
    特に注意すべきケースは、主に以下の6点です。

    本章では、人事労務担当者が特に警戒すべきこれらのリスクと、具体的なトラブル防止策を詳しく解説します。

    適切な額の固定残業代を支給できていない

    固定残業代が適切な額に達していないケースでは、その多くに「計算方法の誤り」が潜んでいます。
    その結果、無意識のうちに残業代不足が発生し、是正勧告や未払い分の遡及支払いを求められたり、従業員との信頼関係を大きく損なったりする経営リスクを招く恐れがあります。
    不足が生じる主な原因は、以下の設定ミスです。

    • 基礎賃金の算定ミス:本来含めるべき手当を、名称のみで判断して機械的に除外している
    • 割増率の計算ミス:法定の割増率(時間外25%以上、休日35%以上など)を下回る率で計算している

    こうしたリスクを防ぐには、賃金規程や就業規則において、どの手当が基礎賃金に含まれるのかを実態に基づいて明文化することが不可欠です。
    そのうえで、以下のトラブル防止策を参考に、運用ルールを整備しましょう。

    • 固定残業代の計算式(基礎賃金×固定時間×割増率)を社内で統一し、共通のシートやマニュアルを用いて計算する
    • 新しい手当を導入したり賃金体系を変更したりした際には、「基礎賃金」「割増賃金の算定対象」に含めるかどうかを必ず確認する
    • 人事・労務・経理など複数の担当者でサンプル給与明細を定期的にチェックし、固定残業代が適正に計算されているかを点検する

    基礎賃金の範囲や計算過程を「見える化・標準化」しておくことで、意図しない残業代不足や労務トラブルのリスクを大幅に軽減できます。

    (※)参考:厚生労働省「割増賃金の基礎となる賃金とは?」

    固定で定めた時間数を超えた分の残業代を支給できていない

    固定残業代の対象となる時間を超過したにもかかわらず、その分の割増賃金を支払っていない場合、未払い残業として是正指導や是正勧告を受ける重大なリスクが生じます。
    固定残業制はあくまで「あらかじめ定めた時間分の残業代を定額で先払いする仕組み」に過ぎず、その時間を超えた労働に対しては、別途割増賃金を支払う法的義務があるためです。
    たとえば、固定残業時間を月20時間に設定しているケースで、実際の残業時間が30時間に達したにもかかわらず、超過した10時間分の割増賃金が別途加算されていなければ、未払い残業と判断されるおそれがあります。
    こうしたリスクを確実に防ぐためには、固定時間の超過分をリアルタイムかつ正確に把握する体制が不可欠です。
    超過時間を適正な割増率で自動計算できるシステムの導入は、計算ミスや支給漏れを防止するうえで有効な手段となります。

    基礎賃金と固定残業代の区分が明確になっていない

    固定残業制では、基礎賃金と固定残業代の区分を明確にしておくことが非常に重要です。
    両者の区分が曖昧なままだと、どの部分が基本給で、どの部分が残業代(割増賃金)なのかを判別できなくなります。
    その結果、固定残業代としての法的有効性が認められず、過去にさかのぼって多額の追加支払いを求められるリスクが生じかねません。
    厚生労働省が公表している「スタートアップ労働条件」でも、固定残業代として支払うべき割増賃金をあらかじめ明示せず、基本給と混ざった状態で支給していたために、固定残業代としての有効性が否定された事例が紹介されています。(※)
    こうした事態を防ぐための対策として、雇用契約書や就業規則に固定残業代の「金額」「対象となる時間数」「割増率」を正確に明記し、第三者から見ても計算根拠がわかる状態を整えることが不可欠です。

    (※)参考:厚生労働省「スタートアップ労働条件」

    募集要項や求人票へ詳細情報を明示できていない

    固定残業制を採用する場合、募集要項や求人票に内訳や条件が十分に記載されていないと、求職者に誤解を与える「不適切な表示」と受け取られ、トラブルや訴訟を招く恐れがあります。
    給与総額のみを提示し、基本給と固定残業代の区分や超過時のルールが不明確なままだと、事後に「残業代は基本給に含まれている」と主張しても、法的有効性が認められない可能性が高いため注意が必要です。
    たとえば、「テックジャパン事件(最高裁平成24年3月8日判決)」では、基本給のどの部分が時間外労働の割増賃金に当たるかが雇用契約書等から明確に判別できなかったため、固定残業代としての有効性が否定されました。その結果、会社に対して別途、時間外手当の支払いが命じられる事態に至っています。(※)
    こうしたリスクを回避し、透明性の高い情報提供を行うためにも、求人票や募集要項には必ず以下の3点を明記しましょう。

    1. 基本給
    2. 固定残業時間・金額・計算方法
    3. 固定時間超過分の割増賃金を追加で支払う旨

    (※)参考:厚生労働省・都道府県労働局・ハローワーク「固定残業代を賃金に含める場合は、適切な表示をお願いします」

    基本給が最低賃金を下回っている

    固定残業制を採用している場合でも、基本給などの「基本的な賃金」が最低賃金を下回っていれば最低賃金法違反となります。
    その場合、是正指導や未払い分の遡及支払いを求められる恐れがあるため、細心の注意が必要です。
    最低賃金額と比較する際は、基本給や職務手当などの「算入対象となる賃金」のみで計算しなければなりません。固定残業代や時間外手当、賞与などは原則として算入できない点に留意しましょう。
    たとえば、固定残業代や各種手当を含めた「総支給額」では地域の最低賃金を上回っているものの、そこから固定残業代を除いた基本給部分を所定労働時間で割ると、実は最低賃金を下回っていたという事態が起こり得ます。
    この場合、企業側は適切に支払っているつもりでも、行政からは「基本的な賃金が最低賃金割れしている」と判断され、是正勧告を受けるリスクが生じます。
    こうした法的リスクを回避するためには、地域ごとの最低賃金に連動した基本給設定を行うとともに、以下のような運用ルールを整えることが不可欠です。

    1. 毎年の最低賃金改定時に基本給・算入賃金の水準を見直す
    2. 欠勤や控除が発生した場合に、控除後の「時間あたり賃金」が最低賃金を下回っていないかを月次でチェックする

    固定残業代はあくまで「基本給に上乗せされるもの」として切り離して考え、基本給単体で最低賃金を確実にクリアしているかを常に確認しましょう。

    (※)参考:厚生労働省「最低賃金_対象となる賃金は?」

    従業員の労働時間を適切に管理できていない

    固定残業制において、労働時間を正確に把握できていない状態は、未払い残業代の発生や法的ペナルティを招く最大の要因となります。
    固定残業時間を超えた実労働を分単位で把握できなければ、本来支払うべき追加の割増賃金を正しく算出できないからです。
    たとえば、紙の出勤簿や手入力の集計表といったアナログな管理を行っているケースでは、打刻漏れや計算ミスによって「実は固定時間を大幅に超えていた」という事実を見落としやすくなります。その結果、退職時などに従業員から過去数年分の残業代を遡及請求され、客観的な証拠がないために会社側が不利な状況に追い込まれるリスクも否定できません。
    こうした事態を防ぐには、パソコンのログ記録やICカード打刻、勤怠管理システムなどを活用し、労働時間を「客観的」かつ「リアルタイム」で管理する体制を整えることが不可欠です。
    デジタル化によって超過残業を自動的にアラート(警告)できる仕組みを導入すれば、未払いリスクの解消だけでなく、長時間労働の是正といった一歩進んだ労務改善にも繋げられるでしょう。

    (※1)参考:厚生労働省「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」
    (※2)参考:厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」

    固定残業制の効率的な運用に勤怠管理システムが役立つ理由

    固定残業制の適正な運用を支え、事務作業の効率や正確性を高めるうえで、勤怠管理システムの活用は非常に効果的だと言えます。
    固定残業制には「実労働時間の客観的な把握」と「超過分の確実な算出」というプロセスが求められますが、これらを手作業やアナログな手法で管理し続けるには、相応の工数と細心の注意が必要です。
    そこへ勤怠管理システムを導入することで、複雑な計算を自動化し、ヒューマンエラーを防ぎながら管理の精度を大幅に向上させることが可能になります。
    具体的にどのようなメリットがあるのか、主なポイントを確認していきましょう

    正確な勤怠データにもとづいた固定残業時間を設定できる

    勤怠管理システムの導入により、客観的な記録に基づく適正な固定残業時間の設定が可能になります。
    紙の出勤簿やExcelへの手入力では正確な把握が難しい「日々のリアルな労働実態」が自動で蓄積され、可視化されるようになるからです。
    部署や職種ごとに、実際の残業時間と現行の固定残業時間との乖離を数値で明確に示せることは、企業にとっての適切な人件費管理はもちろん、従業員に対する「根拠のある説明」と納得感の向上に大きく寄与します。
    過去のデータを多角的に分析することで、実態に即した柔軟な制度設計や定期的な見直しが、よりスムーズかつ正確に行えるようになるでしょう。

    客観的な労働時間把握で従業員の労働状況を可視化できる

    勤怠管理システムを活用することで、従業員一人ひとりの労働状況をリアルタイムで可視化できるようになります。
    パソコンやスマートフォンなどを使用し、時間や場所を問わない打刻が可能なため、手書きや自己申告で起こりがちな「記録の漏れ」や「記憶による誤差」が発生しにくくなるからです。
    誰がどれだけ残業しているか、特定の従業員に負荷が偏っていないかを即座に確認できるため、早期のフォローや業務量の適切な調整といった、迅速なマネジメント判断が可能になります。
    こうした客観的なデータに基づく管理体制は、過度な長時間労働の防止だけでなく、透明性の高い職場環境の実現に大きく貢献することが期待できるでしょう。

    労働時間の自動集計で残業代を適切に支給できる

    勤怠管理システムで労働時間を自動的に集計することで、残業代の支給漏れや過払いを防ぎ、適正な給与計算をスムーズに行えるようになります。
    手作業による集計はどれほど注意を払ってもヒューマンエラーが起こりやすく、特に「固定残業時間を超えた分の割増賃金」は見落としが発生しやすいポイントです。
    システム上で労働時間がリアルタイムに算出されれば、超過分の残業代が自動計算されるだけでなく、その労働時間が固定残業の枠内かどうかも自動で判定されるようになります。
    こうした仕組みは、法令遵守を支えるだけでなく、給与システムとのスムーズな連携によって、従業員に対する公正で透明性の高い給与支給の実現に役立つでしょう。

    (※)参考:勤怠管理システムと給与計算の連携で業務効率化とミス防止!

    固定残業時間の超過に対しアラートを設定できる

    勤怠管理システムを活用することで、残業時間が設定した枠を超えそうになった際、早期にその兆候を察知できるようになります。
    多くのシステムには、労働時間の経過に応じて管理者や従業員へ通知を送る「アラート機能」が備わっています。これを利用すれば、「今月の残業が固定時間に近づいています」といった通知がリアルタイムで届くため、事後対応ではなく、その場で業務量の調整や追加残業代の事前確認が行えるようになります。
    こうした「超過を即時に把握できる仕組み」を整えることは、単なるミス防止にとどまりません。社内全体の残業傾向を早期にキャッチアップできるほか、従業員一人ひとりの「残業抑制に対する意識」を高めるきっかけとしても、良い効果が期待できるでしょう。

    クラウド型勤怠管理システム「楽楽勤怠」で固定残業制を適切に運用しよう

    固定残業制は、正しく運用することで人件費の見通しを立てやすくし、従業員の収入を安定させることができる有益な制度です。
    しかし、実労働の実態に即さない運用や超過分の未払いは、企業の信頼を揺るがす重大な労務リスクに直結します。制度の法的有効性を保ち、従業員の納得感を得るためには、「客観的な労働時間の把握」と「正確な集計」が重要になります。
    とはいえ、これらを日々手作業で管理し続けることは、人事労務担当者にとって非常に大きな負担となることでしょう。
    ラクスが提供するクラウド型勤怠管理システム「楽楽勤怠」は、以下を中心とした豊富な機能により、健全な制度運用をバックアップします。

    • 出退勤の自動記録:客観的な打刻データで実労働時間を正確に蓄積
    • 超過アラート機能:固定残業時間を超えそうな従業員を早期にキャッチアップ
    • 割増賃金の自動計算:給与システム連携で計算ミスや支給漏れを未然に防止

    また、企業ごとの運用に沿う柔軟なカスタマイズ性や、従業員と管理者の双方で見やすく操作しやすい画面設計により、運用成功へ導きます。
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    石川 弘子
    • 監修石川 弘子
    • フェリタス社会保険労務士法人 代表
      特定社会保険労務士、産業カウンセラー、ハラスメント防止コンサルタント。
      著書:「あなたの隣のモンスター社員」(文春新書)「モンスター部下」(日本経済新聞出版社)
      https://www.ishikawa-sk.com/

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    「楽楽勤怠 クラウドサービス」は「デジタル化・AI導入補助金2026」の対象ツール(通常枠)です。
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